Leverages データ戦略ブログ

インハウスデータ組織のあたまのなか

新卒の統計研修の講師をやってみた

はじめに

こんにちは。レバレジーズ株式会社データアナリティクスグループの田代です。
今回は弊社マーケティング部の新入社員約20名を対象とする新卒研修の講師を任されたので、そのレポートを共有します。

新卒研修を行うことになった背景

データ戦略室が発足した2019年から、毎年新卒を対象にデータ利活用の研修を行っています。今年も研修の依頼を受け、マネージャーからの指名で、研修コンテンツの作成および研修講師を私が担当することになりました。
新卒研修はデータ戦略室のブランディングや新卒のデータ利用能力向上のための重要な仕事だと考えていたので、当時入社半年の私に任せてもらえたことはとても光栄でした (以前書いた記事にも同じことを書いていました)。

新卒研修のコンテンツ要望から考えた狙い

「統計研修」という研修タイトルは決まっていましたが中身は何も決まっていませんでした。ただ、マーケティング部の部長や研修全体の担当者から下記の要望はありました。

特に「統計研修」という名前の通り統計的な知識を扱いながら、事業や業務に対する知識が深くない新卒社員を相手に「正しく検証するとはどういうことか」を2.5時間で伝えることには正直頭を悩ませました。

時間内に要望を叶えるために、研修内容は2つのねらいに絞りました。

  • 統計の分野で使われる言葉になじんでもらう:統計的な用語や知識を調べられるように、いわゆる「ググる」「LLMでプロンプトが叩ける」きっかけとなるような研修を作成しました。
  • 検証するために設計することの重要性を知ってもらう:正しく検証することを目的にした研修は実務をやったことない新卒社員には想像し難いと判断し、まずは「正しく検証しないと間違った事業部の意思決定が行われる可能性がある」ことを認知して「検証するときは、可能な限り1つだけ変数を変える」原則を伝えることを重要視しました。特に統計を知らないと認知度が低いバイアスや因果推論については触れるようにしました。

また、研修内容とは別に2つの裏テーマも設けました。

  • アイスブレイク:1ヶ月以上にわたる新卒研修の初めのコンテンツであったため、チームや講師と話しやすい空気を作ることを意識しました。同時に「社会に出ると答えはない」ことを感じてもらうことで社会人特有の考え方を感じてもらうような研修を設計しました。

  • データ戦略室への依頼がしやすい環境を作る:配属の関係上、データ戦略室に配属される人より依頼する人の方が多いため、依頼しやすい環境が整えばデータを活用して事業の意思決定の加速がするようになるだろうと考えて研修を行いました。

コンテンツ作成/実施時に意識したこと

  • 新卒社員のバックグラウンドが多様であること:文系か理系かの違いだけではなく、初めて業務をする人が多いかと思えば、内定者インターンをして業務を経験している人も半数近くいます。 どんな研修でもそうですが、研修の内容を知っている人からすると退屈な研修になってしまうし、前提を飛ばして本筋だけ説明するとわからない人はわからないまま研修を終えてしまいます。 そこで悩んだことが、誰を対象に今回の研修を行うのが良いかでした。最終的には「高校数学を履修した人かつマーケティング部の業務を全く知らない人」を対象に作り、中身となる社内事例や課題を工夫することで解決しました。

  • 社内事例を探すことの難しさ:社内事例自体はありますが、わかりやすく「検証がうまくいった事例」と「検証の設計がうまくいかなった事例」を探して切り取るのは時間がかかりました。事業や分析したい内容の背景を踏まえて検証していくことが多い中で、新卒社員でもわかる情報量で伝わるようなコンテンツにすることが難しく、研修前日まで悩みました。最終的には新卒社員がイメージしやすいであろう「新卒領域に関わる分析」の社内事例を使いました。

コンテンツの内容

社外秘の事例が盛り込まれているので、アジェンダとサマリーのみ記載します。

項目 要約
統計の超概要 世の中でよく使われる指標(代表値、平均値)や統計の用語(正規分布や仮説検定)等の説明
効果検証(データ分析)の全体像 「課題設定→仮説設定→効果検証の設計→効果検証の実施→結果の解釈」の流れで行われるもの
課題設定 課題設定する考え方や優先順位の決め方(全体研修の内容を復習)
仮説を立てる 実際に課題に対する仮説を考える/仮説を更新してみるケースワークを実施
効果検証の設計 5W1Hを使った簡易的な設計表(図1)を使って何を変えるのかを明確にする。
効果検証の実施 設計内容を元に検証を実施。検証する前に元データの分布を見ておくと良い。
結果を解釈する 相関関係と因果関係に気をつけましょう。設計時点で方向性は解釈の決めて検証をすると良い。
研修後課題① スプレッドシートで元データから集計する課題
研修後課題② 統計知識の調べ物学習
研修後課題③ 実際の事例から分析を追体験する課題

図1:研修で使用した簡易的な設計表

図2:研修で使用した因果と相関の話

推しポイントは2点です。
①効果検証の重要さを知ってもらうために界隈で有名な生存バイアスの例を使用しました。データ分析を生業にしている人は当たり前に知っていても新卒社員で知っている人は少ないと踏んで考えてもらいました。

図3:生存バイアスの例

②実際の事例から分析を追体験する課題は、データ戦略室で失敗した事例を選定しました。「検証するために設計することの重要性を知ってもらう」事例として成功事例ではなく失敗事例を体験してもらいました。

研修を終えた感想

  • タイムマネジメントは反省点:想定していた時間配分では収まりきらず、内容を飛ばしてしまった点は反省点でした。質問や議論に時間がかかることがわかったので、もう一度やるなら伝えるポイントをもう少し絞って挑みたいです。

  • もっとマーケティング部全体に寄り添えれた:先ほど記載した事例はデータ戦略室で行った分析ばかりを紹介してしまい、マーケティング部として手触り感の薄い事例をあげてしまったなと反省しています。他チームの事例を集めることができたら配属後にも使いやすい知識を提供できたなと思います。

  • 新卒からパワーをもらえた:全く事業状況がわからないところから自分たちなりの仮説を立てて分析して結果を出そうとする姿勢を見て、自分も知っている知識や世界から最適解を見出すのではなく、知らない世界から知識を貪欲に吸収しようと思わせてくれました。

  • 事実に解釈は十人十色:課題の回答を通じて、同じ分析結果でも解釈は人それぞれ異なることがわかりました。どの観点を重要視しているかは会社や事業、職種、最終的には人に依存するので、会社/事業としてどんな価値観を大切にするのかを決めることは重要なんだなと気づきました。

さいごに

  • 正直研修を作ることはそこまで難しくないだろうと思っていました。しかし誰にどう伝えるのかを改めて考えるいい機会だったなと思います。

  • 終わった後に資料の品質や内容含めて研修に参加していない社員の方から褒めていただけたのはうれしかったです。好評だったこともあり、新卒社員以外の社員向けに同じような研修を行いこちらも好評だったので、質が良い研修を提供できてほっとしました。

  • 研修終盤に行う配属希望アンケートでデータ戦略室をあげてくれた人がいたと聞いて、とてもうれしかったですし、改めてレバレジーズにおいてデータ戦略室の価値をもっと高めたいなと思いました。