はじめに
こんにちは、レバレジーズでアナリストをしている高津です。この度弊社の人材サービスにおける、顧客のLTV(Life Time Value)分析を行いました。本記事では、LTVの考え方とその算出に使用する生存時間分析という手法を紹介しようと思います。
LTV(Life Time Value)とは何か?
LTVとは「顧客生涯価値」と訳され、一人の顧客がサービスを利用開始してから終了するまでの間に、その顧客がもたらすであろう利益の総額を指します。
LTVを算出することは、企業にとって以下のようなメリットがあります。
- 顧客の将来の利益を考慮することで、より正確な予算策定を行うことができる
- LTVが高い / 低い顧客を把握することで、長期利用をしてもらうための施策を検討することができる
LTVの算出方法
LTVの算出方法はいくつかあり、業界や商材によって計算式が異なります。
①メーカーや小売業など、リピート商品を扱っている場合
LTV = 顧客の平均購入単価 × 購入頻度 × 継続期間
②SaaSやサブスクリプションサービスを扱っている場合
LTV = 顧客の単月平均単価 ×(1ヶ月目の継続率+2ヶ月目の継続率+…+Nヶ月目の継続率)
今回の分析では、「登録以降どれくらいの割合の顧客が継続してサービスを利用してもらえているか」という継続率を重視したいため、②の算出式を採択しています。
なぜ生存時間分析が必要か?
LTVを算出する際に課題となるのが、顧客がいつサービスから離脱するかわからないということです。
そこで登場するのが生存時間分析です。この手法は、もともと医療分野で患者の生存期間を予測するために使われていたため、''生存時間''分析という名前になっています。
生存時間分析の特徴
この手法の最大の特徴は、打ち切りデータを扱える点です。
打ち切りデータとは、分析したい特定のイベント(例:製品の故障、顧客の離脱、患者の死亡など)が発生する前に、何らかの理由でデータが途切れてしまう、または完全な情報が得られないデータを指します。
たとえば、ある顧客が分析時点でまだサービスを利用している場合、その顧客の「離脱までの期間」はわかりませんが、その顧客が「少なくともどれだけ継続したか」という情報を得ることができます。
もし打ち切りデータを除外して分析を行ってしまうと、現在継続して利用している顧客を考慮しないことになり、結果的にLTVを過小評価してしまいます。
生存時間分析を理解する
生存時間分析を理解する上でいくつか主要な概念を説明します。
(本記事では数式による説明は省略します)
1、生存関数
生存関数は、離脱が発生する時間がある時刻を超える確率(= ある時刻までに離脱が発生していない確率)を表します。
今回の分析例では、顧客がサービスを利用開始してから、ある時間経過後も継続している確率を意味します。
2、ハザード関数
ハザード関数は、ある時刻まで継続した顧客が、その後短時間で離脱する確率を表します。
ハザード関数と生存関数は同値関係で、片方を求めればもう一方を求めることができます。ハザード関数は生存関数で仮定する分布によって形状が異なり、それは離脱リスクが時間によってどう変化するかに依存します。
生存関数で用いられる代表的な分布と、その時のハザード関数の形状を以下に紹介します。

単調増加する形状では利用直後は離脱リスクは低いが、時間経過と共に離脱リスクが高くなることを意味します。一方、単調減少する形状では、利用開始直後は離脱リスクが高いが、長期間継続して利用する顧客は離脱リスクが低くなることを意味します。


3、Cox比例ハザードモデル
Cox比例ハザードモデルは、分布の仮定に依存せず共変量の影響を推定できるモデルです。
実際の顧客行動が必ずしも上で紹介したような分布に従うとは限りません。そこで利用されるのがCox比例ハザードモデルです。顧客や求人の属性データを共変量として用いて、その共変量が離脱リスクに影響を与えていると考えるモデルです。特徴はデータの分布がどのような分布であっても適用することができることです。さらに、どの共変量が影響を大きく与えているか特定することも可能です。
ただし注意として、実際に適用する際には比例ハザード性のチェックが必要です。
比例ハザード性とは、離脱リスクの比が、共変量の2群間の間で時間経過によらず一定であることを意味します。
以下の①のような例では比例ハザード性が成り立っていて、②のようにある一定期間経過後から差が見られるような例では比例ハザード性は成り立っていないと言えます。


まとめ
本記事ではLTVの算出における生存時間分析の考え方を紹介しました。
「生存時間分析を使ってみたいけど数式ばかりで難しい」と思っている方の助けになれば幸いです。
今回は数式を用いずに概念の説明に留めましたが、興味がある方は数式に触れてみると理解がより深まると思います。