はじめに
こんにちは、データ戦略室のブライソンです。2024年6月、レバレジーズ全社で「AI推進」を戦略の1つとすることが決定し、私がその担当として任命されました。最初はたった1人で、しかも「AI推進室」なんて部署は存在しない上、何のルールも制定されていない無法地帯の状態からのスタートでした。そこから有志を集めて勝手に組織を名乗り、ルール整備や多数のPJ立ち上げから始め、紆余曲折を経て、最終的には「AIの民主化」に奔走するに至るまでの1年半の軌跡を、ここに書き残そうと思います。
なぜこの内容を書こうと思ったかと言いますと、過去にこちらの「社内AI推進者はつらいよ」という記事を拝見した際に、「たしかにわかるなー、他社のAI推進者はどういう取り組みをしているんだろう」と疑問に思ったからです。同じことを思った誰かのためになればと思います。
急に始まったAI推進
私は、2024年の4月にレバレジーズにデータアナリストとして入社しました。当時、「よっしゃ分析したるで!」と肩をぶんぶん振り回しながら入社したのですが、3ヶ月が経ったある日に、突然AI推進の担当に任命されました。任命された当初、具体的な方向性は特になく、「全社でAIを推進してくれ」とだけ言われたため、何から手をつければいいのかは全く分かりませんでした。そもそも、AIという手段を推進するというのは個人的には納得していませんでした。どこかに課題があった時に、その解決手段の1つがAIなのだから、手段が先行した推進活動というのはおかしな話だと思っていました。とはいえ、生成AIは世の中のゲームチェンジャーだと思いますので、推進する価値はあるのかもと思い、進めることにしました。
非公式組織「AI推進室」の立ち上げ
まず行ったのは、仲間集めです。そもそも何をすればいいのか検討もつかなかったため、一緒に考えてくれるAI好きの人を探しました。2024年7月、私の呼びかけに応えてくれた3人のメンバーと共に、架空の組織「AI推進室」を立ち上げました。メンバー構成は少し特殊で、「ビジネスサイド2名(私+マーケティング部のプロモーション担当者)」と「AI/MLエンジニア2名」というハイブリッド型でした。当時、各事業部の事業責任者やマーケティング責任者の方々が記入した「AIでこんなことできたらいいな」がまとまったスプレッドシートが存在したので、それを参考に、全事業部へのヒアリングを行い(レバレジーズは事業が多すぎる...笑)、「現場が本当に欲しがっている(=事業インパクトがある)かつAIを使って解決できそうなもの」を1つ1つ要件定義していきました。当時ほとんどの人がはじめましてだったので、「なんじゃこいつ」と思った人もいたことでしょう。

フェーズ1:とりあえずPJを立ち上げまくる(2024.08 - 2025.05)
PJ立ち上げ
要件定義をしたPJの中でも工数を出して対応ができそうなものを順に立ち上げていきました。職務経歴書の自動生成、新規ページの自動作成、案件登録作業の自動化、バックオフィスQAボットの作成、Dify導入、レコメンドエンジンの開発など、数多くのPJを進めました。PJの体制も様々でした。AI推進室でツールを作成して導入したもの、事業部の開発部とタッグを組みAPI部分のみをAI推進室で作成したもの、PoCのみAI推進室で行い実装は事業部の開発部にお願いしたもの、AI推進室でプラットフォームだけ用意して提供したもの、それぞれ状況に応じて体制を変えました。もちろん、PoCで頓挫・撤退したPJもいくつかありました。
生成AIガイドライン作成
AI関連の機能開発PJを立ち上げる傍ら、生成AIチャットツールの利用の推進も行いました。当時、社内にはCAILと呼ばれるチャットツール自体はあったものの、「情報漏洩が怖い」「使っていいのかわからない」という理由で、ほとんど使われていないというもったいない状況でした。(CAILについては、「レバレジーズの機械学習エンジニアの1年を振り返る」をご参照ください)そこで、社内の弁護士の方と共に、「ここまではOK」「ここはNG」という明確なガイドラインを策定しました。線引きは至ってシンプルで、「入力が学習に使われる可能性があるものはNG、そうでなければ(個々のNDAにおける秘密保持義務の遵守や享受目的を有して他者の著作物を入力すること等との関係で一定の限界はあるものの)何を入力してもOK」という内容です。CAILは有料のAPIを叩いており、オプトアウトされているため、上記線引きではOKになり、積極的に利用の促進をしていきました。元々、生成AIに関しては誰も明確なルールを口にしたがらなかったのですが、システムやAI周りにも詳しい弁護士の方がレバレジーズにジョインした途端、ルール整備がスピードアップした時は感動しました。
代表との対談
そんな活動を続けていた2025年5月、会社の広報用YouTube企画で、レバレジーズの代表とAI推進について対談することになりました。動画の中で、代表の口から自然と「AI推進室」という言葉が出たとき、私たちが勝手に名乗っていた架空の組織が、気づいたら定着していたのかと思いました。(YouTube動画:【AI戦略】レバレジーズ岩槻代表はAI活用の未来をどう考える?)今見ると、随分と偉そうに喋っていて、お恥ずかしい限りです。
フェーズ2:AI推進の方針転換(2025.06 - 09)
AI推進が始まってから1年ほど経った2025年6月ごろ、私たちは大きな方針転換をします。それは、「生成AIの民主化」という決断でした。
3つの「気づき」
多くのPJを進める中で、私たちはある事実に直面していました。
1.プロンプトは現場のメンバーが書いた方が強い
どんなに私たちがヒアリングしても、長年その業務に従事している「ドメイン知識」を持ったメンバーが書くプロンプトの精度には勝てません。正直私たちがプロンプトエンジニアリングをするのは非常に効率が悪く、「誰でもできるんだから我々がやる必要ないでしょ」ということに気づきました。
2.APIを叩くのはコモディティ技術
生成AIのAPIを叩いて回答を得る処理自体は、もはや高度な技術ではなく、開発部のエンジニアなら誰でもできる標準スキルです。AI推進が始まった当初はなぜだか高度なことのように見えましたが、全くそんなことはありません。これについても、「わざわざ我々がやる必要ないでしょ」と思うようになりました。
3.生成AIの利活用がスケールしない
このままAI推進室が全ての要望を受けていては、私たちの人数の少なさがボトルネックになり、全社のスピードを殺してしまうし、対応するPJの数にキリがないと思いました。当時、社員数はすでに3,000人以上おり、このまま少人数組織で頑張っていてもスケールしないことに気づきました。
これらのことに気づいた私たちは「AI関連PJを自分たちで立ち上げて進める」ことから「生成AIをみんなに使ってもらい、各々が活用する」ことへシフトしました。その上で、AIエージェントやレコメンドエンジンなどの高度な開発や、AIを使うためのプラットフォーム開発にリソースをなるべく投下していくようにしました。
生成AIの民主化に向けた準備
民主化すると言っても、「あとは各自で頑張って」では誰も動きません。というわけで、推進するための土台を準備しました。
1. 全社生成AI研修の実施
当時、Geminiの存在を知らない人や生成AIの使い方を知らない人がまだちらほら散見されました。まずは、全員が共通認識として「生成AIとは何か」、「Geminiアプリでできること」、「生成AIを使う際に気をつけること」などの最低限の知識をつけてもらう必要があると思い、人事部に協力いただき、全社向けに研修を作りました。履行率はなんと驚異の90%越え。その後の新入社員の研修にも組み込まれ、レバレジーズ社員は全員最低限生成AIに触れたことがある状態にすることができました。
2.Gemini for Google Workspaceのキャッチアップ
弊社はGoogle Workspaceを採用しているため、Geminiが追加課金なしで使えます。機能がどんどん追加されて便利になっていき、気づいたら社内チャットツールCAILを凌駕していたGeminiアプリを積極的に推進していける状況も民主化の鍵となりました。Gems機能ができたり、スプレッドシートにAI関数が追加されたり、Google Meetの録画を文字起こしする機能ができたり、NotebookLMがどんどん便利になったり...。自分はひたすらこれらの機能をキャッチアップし、たくさんの選択肢から解決策の提示ができる状態にしていました。
3.AI駆動開発の研究
2025年6月、AI推進室のメンバーで、AWS Summit Japanの生成AIハッカソンに出場し、準優勝することができました。(当時の記事:「AWS Summit 生成AIハッカソンで準優勝しました!」、YouTube動画:「【AWSハッカソン準優勝】AI駆動開発で挑んだ「引き継ぎエージェント」開発の裏側」)この時、アウトプットを短期間で作成するにはAI駆動開発が必須で、参加メンバーは否が応でもコーディングエージェントに頼らざるを得ませんでした。この経験を皮切りに、弊社のAIエンジニアはAI駆動開発の正解を模索しては開発部に共有するということをするようになりました。次々にコーディングエージェントが発表された当時の追い風もあり、社内にはGitHub CopilotやClaude Code、Devinなどがどんどん広まっていきました。
4.誰でも使える「内製AIアプリ」の提供
エンジニアではない社員でもテキスト以外の生成AIの恩恵を受けられるよう、GeminiやImagen、Veo、SoraのAPIを裏側で叩く内製アプリを開発しました。社内向けにカスタマイズをし、画像・動画・スライド・音声など、様々なコンテンツが生成できるような環境を用意しました。現在、このアプリは、毎日100回ほど利用されていますが、作ったのはAI推進室にいる非エンジニアです。もちろん、これらの機能はGeminiアプリでも利用可能ですが、画像生成における細かい設定や自社テンプレートを使ったスライド生成など、Geminiアプリでは対応しきれない細かいニーズを安価に解決しています。ちなみに、始めはGoogle Colaboratoryを使い突貫工事で作られたのですが、ユーザビリティが悪く、後にStreamlitアプリになり、今ではNext.jsやTypeScriptで作られた綺麗なアプリケーションへと生まれ変わりました。
現在:エバンジェリストによる自律分散型組織へ(2025.10 - 現在)
そして現在。AI推進の主役は、AI推進室から「各事業部のエバンジェリスト」へと移っています。
エバンジェリストの選定
AIを民主化するには、どうするか。実際に現場の人たちに使ってもらう他ありません。そこで、私たちは、各事業部にAI推進エバンジェリストを立ててもらい、その人たちが、自事業内での利活用推進を行うという仕組み作りをすることにしました。これは、モノタロウさんの記事(モノタロウのAI駆動開発の全貌をご紹介します)の「モノタロウのAI駆動開発推進体制」を参考にしています。実際には、推進対象がエンジニアではなく営業の人たちだったり、AI駆動開発チャンピオンの立場の人がいなかったりと、違いはあるものの着想はこの記事から得ています。エバンジェリストは我々で選定したわけではなく、ほとんど、事業サイドでやる気のある人にやってもらっています。この1年半の間、AI推進はやる気と熱量だなとつくづく感じたので、適正云々ではなくやる気と熱量でエバンジェリストをやってもらっています。体制のイメージ図は以下です。(図では、AI推進室やエバンジェリストが上側に書かれていますが、組織図上の上下関係があるわけではありません)

エバンジェリストとやっていること
2026年3月現在、社内の8つほどの大きな事業部に、AI推進エバンジェリストがいます。彼らは、自事業部の現場の業務プロセスの中で特に工数がかかっている箇所を特定し、AIを使って解決できるものはGemやNotebookLMで仕組み化して解決したり、個々人が自ら生成AIを使った機能を作れるように、啓蒙活動を行ったりしています。私たちは週次のMTGで技術的な壁打ちに乗ったり、現場レベルでは解決できない「高度なAIエージェント開発」や「全社共通基盤のアップデート」に注力しています。また、3月からは各事業部のエバンジェリストたちが集まる横串の定例会も開催し始め、事例の横展開も可能な状態を構築しました。また、社内での生成AI活用事例集も定期的にアップデートしてもらい、メンバーレベルでも事例を吸収できるようにしています。弊社の主要サービスは、ほとんどが人材紹介であるため、抽象的にはビジネスモデルがほぼ一緒です。そのため、どの事業部も似たような課題を持っており、事例の横展開が非常にしやすい環境にあります。
目標と展望
当面の目標は、各事業部のGeminiアクティブユーザー率を50%以上にすることです。なお、アクティブユーザーとは、Geminiアプリを月に100回以上利用した人のことです。この数字は、DeNAさんが提唱するDARS(全社のAIスキルを評価する指標「DeNA AI Readiness Score(DARS)」を導入開始)と呼ばれる生成AIの活用レベルを参考に設定いたしました。現在、弊社は残念ながら、この記事で言う組織レベル1に該当するかと思います。Geminiアプリを月100回以上利用する人が組織の50%を占める状態。これを組織レベル2として定義しました。AI推進室の介入により、各事業部を組織レベル2に引き上げれば、組織レベル3には必然と組織自ら上がっていくだろうと期待しています。このフェーズになると、AI推進室はもういらないのでは?と思っていたりもします。AI推進し切ったので解散します!と言ってみたいもんですね。この目標達成に向けて、情シスにデータ提供を依頼し、各組織のGemini利用状況が可視化できるStreamlitアプリを作成、毎月モニタリングを実施しています。このアプリでは、個人(アプリを開いた本人)と組織ごとの利用状況を確認することができます。全社を例に見ると、以下のような画面になります。現状のアクティブユーザー率は、37.2%です。

最後に
こうして1年半の道のりを振り返ると、本当に全社の雰囲気が変わったなーと、我ながら感心してしまいます。私が入社した当時は、「生成AI?そんなもの使っちゃダメだよ」、「AIってなんでもやってくれるんでしょ?」、「Geminiってなんですか?」、などのように生成AIに対する認識が非常に悪かった記憶があります。今は、各事業部でも生成AIを使った事例がたくさん生まれたり、各サービスに当たり前に生成AIを使った機能が入りつつあると思うと、随分と様変わりしました。もちろん全部自分のおかげだと思っているわけではありませんが、自分も一変数にはなれたかなと思っています。各事業部のAI推進エバンジェリストを集めた定例会を初めて開いた時は、何とも言えない嬉しさを覚えていました。
とはいえ、目先の目標であるGeminiアクティブユーザー率50%超えは、まだ道半ばであるので、最後までやり切りたいです。実は、急成長を遂げてもうほぼ50%に到達している事業部もありますが、そこから成長率が鈍化するという絵に描いたようなイノベーター理論が見受けられたりもしています。 いずれ生成AIが社内におけるスプレッドシートやSlackのように当たり前に使われるツールになるまで頑張りたいと思います。